日本語教室(カタカナ編)


昨日は日本語教室を地元の子供たちに行った。
教室、と言っても、まずは皆で自分の名前をカタカナで書いてみようという試み。

僕がまさか子どもたちに何かを教える日が来るとは、考えてもみなかった。

ここに至るまでの簡単な経緯を説明すると、僕の知人、と言っても元々は僕の絵を買ってくれたお客さんなのだが、彼女が毎週ボランティアで開いている工作教室で、僕から子どもたちに日本語の書き方を教えて欲しい、という依頼を受けたのが最初だった。なんでも、子どもたちにとっては知らない文字を書くだけでも十分楽しめるから、という話だったので、まあ僕も深く考えずに二つ返事でOKした。

と言っても前述の通り、何か授業めいたことをした経験もないので、いざ準備を始めたら思いのほか大変で、色々と準備に時間がかかった。

自己紹介のために、秋田について調べ物。そして日本語。日本語にはひらがな、カタカナ、漢字の3種類の文字があって、そこにローマ字も混ぜて使っている。これって僕らからしたら自然に使っているから深く考えないのだが、いざそれについて話すとなると色々な疑問、そして新しい発見が出てくる。

そもそも、どうしてひらがなとカタカナがあるのだろうか。これって、ローマ字のアルファベットが同じ発音で2種類あると考えたら分かりやすいのではないか。そうすると、1種類の方が簡単で良さそうなものだが、平安時代に漢字〜万葉仮名からひらがなとカタカナに形を変えて、現代においても両者が使われているのだ。また調べる課題が出てきた。

(それと別の問題で、「やまとことば」という日本古来の言葉がある。文字が中国から伝来する以前から日本で使われていた口伝の言葉。こちらについての考察にも興味がある。)

また、漢字をドイツ語で言うと"chinesische Schriftzeichen"で「中国の文字」という意味になる。本来は「漢字」という文字だってそのまんま「中国の文字」なわけで、そんな事にも気が付かないでいた。まあ実際には現在使われている文字は日本と中国と台湾でまた随分と違いがあるようなので、しっかりと説明しようとなると色々とややこしくなる。

今回の教室ではさすがにそういった突っ込んだ話をする必要もないので、簡単に今日はカタカナで名前を書いてみましょう、という流れにした。

僕からはカタカナの50音図の各文字にアルファベットで発音が書かれた表を用意した(「あ」の下に「A」があるというように)。これで各人が自分の名前を表から探して書くことができる。ちなみに書き順も書いてある。

(ここでまた初歩的な疑問。ひらがな・カタカナって全部で何文字あるのだろうか?答:46文字。ただし「ゐ」や「ゑ」も入れることもあれば、「ば」「ぱ」「きゃ」とかも入れるとすごい数になって、どこで線を引くかが難しかったりするようだ。)

ただ、単純にカタカナで名前を書くと言っても、実際にはその前に一工夫が必要だった。

それはドイツ人の名前を日本語の読みに変換する作業。例えば、Frankaという名前は日本語にするとフランカ「Fu Ra N Ka」になるのだが、ドイツ語での発音は異なるので、相手からすると変な感じがするようだ(ドイツのRの発音は特殊)。あとLaraはララで「Ra Ra」となるが、ここでは日本語ではRaもLaも同じく発音することを説明しなければならない(RaもLaも日本ではドイツ語のLaの発音をする)。

このように、ドイツ語から日本語用のローマ字に名前を変換してあげなくてはならなかった。


授業時間は90分ということで、さすがにこれだけだと時間が持たないだろうと思い、漢字を皆で書くための準備もしておいた。まずは象形文字としての簡単な漢字「日」「月」「山」などのカードを作り、太陽の絵を描いてその隣に「日」と書き、その裏に文字の変遷を書いた。これでどのようにして漢字になったかが分かるという次第。

あとその場で説明することなど、簡単な台本をドイツ語で用意してと、まあ、最近は夜な夜なそういうことをしていたのです。こんな一度の授業の教材作りでかなり時間を費やすのだから、世の中の先生の苦労はいかばかりなのだろうか。


まあ前フリが随分と長くなってしまったが、いざ子供たちが集まって、授業が始まると、あっという間に時間が過ぎ去った。

今回の参加者は9人、平均10歳前後で、一人だけ3歳の男の子。それに付き添いの母親5人とおばあちゃんが1人(加えてサポートの男性が1人)。

簡単な自己紹介を終わらせ(誰も秋田犬を知っている人がいなかったのにはがっかりしたが、、)、僕の名前をローマ字、ひらがな、カタカナ、漢字で書いた紙を見せ、そこからカタカナの話題に入る。

読みについての先述の説明をして50音図表を配る。

Leaちゃんが「レア」とささっと書く。うん、アッサリと書くよな、そりゃ。

え、もう、終了?

僕は一瞬凍りつく。あ、次、漢字やろうか、もしそれもまた5分位で終わってしまったら、その後どうやって間を持たせるべきか?

この時は一瞬焦ったが、ここは工作好きの集まり、各自そこから自由にやりたいことを追求していく。要領が分かってくると、自分以外の友人や兄弟の名前を書いたり、画材を変えたり、中には縦書きに挑戦する子もいた。

中には50音図に載っていない濁音だったり、ニキータのように長音などが名前にある子もいたので、それはその都度個別に教えてあげた。

また、知人がわざわざこの日のために墨と習字用の筆を用意してくれたので、子どもたちも初めての画材を興味深そうに試していた。

皆からこの名前はどう書けばいいかと質問が飛んでくる。僕の名前を書いてみたと持ってきてくれる子がいる。おばあちゃんも一生懸命名前を書いている。

なんかスポンジのようにどんどん吸収していく子供たちに応えるべく、一人一人を回って見ていたらあっという間に時間が来てしまった。


最後には今日のお礼にということで、皆から全員の名前の入った色紙のプレゼントがあり、じーんと来た。なんとも言えず、心が温かくなった。

主催者である知人は、無料でこの教室を毎週開いているのだが、準備にかける時間、画材にかける費用なども全て自分で負担しているそうで、それはそれで大変だと言っていたが、それでも子供たちから大きなエネルギーをもらっている、だから簡単にはやめられない、と言っていた。

他の人が洋服を買ったり旅行に行くことなどにお金を使うように、私はただ子供たちにお金を使っているだけなの、と彼女が言っていたことが印象深い。

彼女からは他にも本のプレゼントをいただき、その上御飯までご馳走になってしまい、こんなつたない授業なのにと申し訳ない気持ちになってしまった。

僕も今回用意していた漢字が未消化で残っているし、子供たちもまた来て欲しいと言ってくれたので、いずれまた都合が合えば先生をしてみてもいいかな、と思っています。



もともと工作好きの子供たちの集まりなので、放っておいても自分たちで先に進んでいくし、ノリがすごくいい。先生としてはとてもやりやすい環境だと思う。


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縦書きに挑戦する強者。



左が3歳の男児。皆と同じことができなくても、彼なりにとても楽しんでいる様子。右の子は「ママ」と書いている。僕が教えたわけではないが、ドイツ語でも「Mama」とつづりが同じなので書いてみたのだろう。なんとも愛らしい。



知人のサポートが素晴らしく、退屈するような子供は一切いなかった。それどころか、一旦のめり込むと時間になってもなかなか止めないのでその場を締めるのが大変だった。



なかなか味のある字でしょう。



※今回は日本語という言葉について、様々な発見、そして調べてみたい課題が出てきた。
以下はそのメモ。

・漢字〜万葉仮名〜ひらがな(平仮名)・カタカナ(片仮名)
・仮名交じり文(漢字を主体としてそこにひらがなやカタカナを含めて書かれた文章)
→なぜ英語などのように、ひらがなやカタカナのみで文章が書かれないのか。
・やまとことば(大和言葉)
・わかち書き(文章の語の区切りに空白を挟んで記述すること)
→日本語の場合、句読点以外は全て続けて書くこと。

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