おばあちゃん、ビールとタバコ



アパートに戻って来た時に、一階の踊り場でゆっくり階段を下りてくるおばあさんとすれ違いました。
なんかあまりにもゆっくりで大変そうだったので、手伝ってあげた方がいいのかな、
とか考えましたが、階段もあと十数段を残すのみだったので、大丈夫かなと思って上って行こうとしたら、
「て、手伝ってもらえませんか?(ドイツ語)」
と言われたので、持っていた布袋を持ってあげ、腕を貸してあげました。

えーと、どこまで行けばいいのかなと思って、玄関の扉の所まで一緒に行ったら、今度は
「タバコを買いに行くのに付いて来てもらえませんか?(ドイツ語)」
と言われたので、僕もなんだか嬉しくなって、一番近くのお店まで一緒にゆっくりとゆっくりと歩いて行きました。

袋の中身をチラッと覗いたら、空きビール瓶が3本入っていました。

100m位先にあるお店に連れて行き、
おばあさんは空のビンと新しいビールを交換し、ウォッカのようなお酒とタバコを買いました。
僕のことに気づいた店員さんが不思議そうに見つめる中、
その袋をまた僕が持ち、一緒にまた来た道を戻りました。

外は雨がパラパラと降っていました。
おばあさんは特に何か話すでもなく、ゆっくりゆっくり歩いています。
僕は、
「僕は日本から来たのですが、日本にいるおばあさんの事を思い出しました(多分ドイツ語)。」
と話しました。
おばあさんは、そうなんですか、という風な返事をしました。

こんなによろよろになりながらも、ビールを買いに来るおばあさん。
僕は不思議な時間の中にいました。

結局2階がおばあさんの部屋だったので、そこで僕の任務は終わりました。
最後に、
「フィーレン、フィーレンダンク(本当に、本当にありがとう)」
とゆっくりおばあさんは礼を言って扉の中に消えました。

僕は、渡したビールの入った袋の代わりに、何とも言えない気持ちを抱えて、
また階段を上がりました。


石塚智寿
http://www.tomohisa54.com/

コメント

  1. そうですね。
    目に見えないけれど
    温かく、じんわり感じる贈り物を
    戴いたのですね。
    姿を想像して
    こちらもほくほくしましたよ。
    お疲れさまでしたね。ムッシュ。

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  2. ほくほくしてくれて、僕も嬉しいです。

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